バイオインフォマティクスでは、大量のデータを扱うため、データの正確性や整合性を確認することが重要です。そのため、Linuxの基本コマンドを駆使して、データのチェックや管理を行うことは必須スキルの一つとなります。
この記事では、GNU coreutils の一部である md5sum
コマンドに焦点を当て、基本的な使い方から応用的な活用方法までを解説します。
1. md5sum コマンドとは?
md5sum
は、ファイルの内容を基に MD5ハッシュ(ダイジェスト) を計算するコマンドです。MD5(Message Digest Algorithm 5)は、任意のデータに対して一意の128ビットのハッシュ値を生成するアルゴリズムで、データの整合性チェックに広く利用されています。
特に、バイオインフォマティクスの分野では、大容量のゲノムデータ(FASTA、FASTQ、BAMファイルなど)をダウンロード・転送する際、データの破損がないかを確認するために md5sum
がよく使われます。
2. md5sum の基本的な使い方
2.1. ファイルのMD5ハッシュを計算する
基本的な使い方として、単一のファイルのMD5ハッシュを取得する方法を紹介します。
md5sum sample.txt
出力例:
d41d8cd98f00b204e9800998ecf8427e sample.txt
この場合、d41d8cd98f00b204e9800998ecf8427e
が sample.txt
のMD5ハッシュ値です。この値を保存しておくことで、後で同じファイルの整合性を確認できます。
2.2. 複数ファイルのMD5ハッシュを計算する
複数のファイルのMD5ハッシュを計算するには、単にファイル名を並べるだけです。
md5sum file1.txt file2.txt file3.txt
出力例:
d41d8cd98f00b204e9800998ecf8427e file1.txt
e99a18c428cb38d5f260853678922e03 file2.txt
ab56b4d92b40713acc5af89985d4b786 file3.txt
2.3. ハッシュ値をファイルに保存する
MD5ハッシュをファイルに保存しておくことで、後でデータ整合性を簡単に確認できます。
md5sum sample.txt > sample.md5
保存された sample.md5
の内容:
d41d8cd98f00b204e9800998ecf8427e sample.txt
2.4. MD5ハッシュの検証
データ転送後や長期保存後に、ファイルが改変されていないかをチェックするには、-c
オプションを使用します。
md5sum -c sample.md5
出力例(ファイルが変更されていない場合):
sample.txt: OK
出力例(ファイルが変更されている場合):
sample.txt: FAILED
md5sum: WARNING: 1 computed checksum did NOT match
3. md5sum の応用
3.1. ダウンロードしたゲノムデータの整合性チェック
バイオインフォマティクスでは、ゲノムデータを NCBI や EBI などのデータベースからダウンロードすることが多く、データの破損を防ぐためにMD5チェックが推奨されます。
例えば、以下のように .md5
ファイルが提供されている場合:
wget ftp://ftp.ncbi.nlm.nih.gov/genomes/README.md5
wget ftp://ftp.ncbi.nlm.nih.gov/genomes/human_genome.fa.gz
ダウンロードしたファイルの整合性をチェック:
md5sum -c README.md5
3.2. バッチ処理で複数のファイルを検証
大量のファイルを一括で検証する場合、スクリプトを活用すると便利です。
例えば、特定ディレクトリ内の .fastq
ファイルのMD5ハッシュを計算し、保存するスクリプト:
find /data/sequencing/ -name "*.fastq" -exec md5sum {} \; > checksums.md5
後でデータを検証するには:
md5sum -c checksums.md5
3.3. MD5ハッシュを用いた重複ファイル検出
同じデータセットが複数の場所に保存されている場合、md5sum
を使って重複をチェックできます。
md5sum file1.fastq file2.fastq file3.fastq | sort
出力例:
3a2d8e4f4dfc05347a8e1a78bdf3c1a5 file1.fastq
3a2d8e4f4dfc05347a8e1a78bdf3c1a5 file2.fastq
9b7d8e9a1f3c1c2b9e6f4d3a7c5b8e2d file3.fastq
file1.fastq
と file2.fastq
のハッシュが同じなので、これらは同じファイルであることが分かります。
3.4. md5sum の制約とSHA系ハッシュの活用
md5sum
は基本的な整合性チェックには有効ですが、衝突(異なるファイルが同じMD5ハッシュを持つ可能性)が指摘されており、セキュリティ目的では SHA-256 などのより強力なハッシュ関数が推奨されます。
SHA-256を使う場合:
sha256sum sample.txt
出力例:
9c56d8efc0d25235db4ff8a6e62e0e7f1a3b5c7c0b0f7c3b1c2d6d3e8b5a7f9c sample.txt
4. まとめ
md5sum
は、バイオインフォマティクスにおけるデータ整合性チェックの基本ツールです。特に、大量のゲノムデータを扱う際には、データの破損を防ぐために積極的に活用すべきです。
主なポイント
- 基本コマンド
md5sum filename
でMD5ハッシュを取得md5sum -c filename.md5
でハッシュ検証
- 応用
- ゲノムデータの検証
- バッチ処理で大量のデータチェック
- MD5ハッシュを使った重複ファイル検出
- 制約
- MD5の衝突リスクがあるため、SHA-256 の利用も検討する
バイオインフォマティクスの現場では、データの完全性を保証することが非常に重要です!!
Linuxの基本コマンドを活用し、信頼性の高いデータ解析環境を構築しましょう〜!